寄稿「30年後のライフスタイルとは」

1.「多人数家族」の実現に向けて

 豊かで長生きを達成した「成熟国家」は、判断を誤ると容易に「衰退国家」への道を進むことになる。これが先月号で説明した「超成熟国家の罠」である。ではどうすればよいか。

 財政再建や社会保障などの制度改革議論も必要であるが、実は、私たち日本人のライフスタイル自体を変えることを考えなければならないのではないか。奇跡的な急激な発展を遂げた日本が迎える人類未体験領域への突入である。人口減少・経済縮小時代に合ったライフスタイルを構想し、国民的コンセンサスをつくり、実現していくときなのではないか。

 明治期の「富国強兵」、戦後期の「キャッチアップ」に匹敵する21世紀の日本の指針を決める作業である。そして、その実現には時間がかかる。例えば一世代、30年程かけてライフスタイルを変える試みとなる。ではどう変えるか。

 一言でいえば、家族の人数を増やすことである。子どもを増やすだけではなく、複数世代による多世代生活の実現である。そのことで、家庭のもつ育児、教育、介護などの多面的機能が今まで以上に発揮される仕組みとし、税金投入を今より必要としない暮しぶりを実現するのである。それは、家庭がもっているセーフティーネット機能を取り戻す作業でもある。

 豊かで長生きの社会は、長寿化と少子化によっていずれ人口減少を迎え、人口構成では「働かない人」と「病気の人」が増え「働く人」が減る。さらに、家族人数の減少が「生活に困る人」の増大を招く。「働かない人」は年金を、「病気の人」は医療を、「生活に困る人」は介護や生活保護、さらには育児支援を必要とし、税金が投入される。

 社会保障は国家の重要な機能である。ただ、社会保障機能の充実を図るがために、国力が減退したり、国家財政が破たんしたら元も子もない。社会保障費は年々一兆円ずつ増大すると言われるが、いまや国家財政はそれを負担する能力を持たない。社会保障を聖域とせず、時代に合った制度に改変すべきときである。

 30年後のライフスタイルを構想し、必要な社会保障の仕組みを再定義し、それを理想として、実現にむけて政策づくりを進めるという手法はどうだろうか。

2.経済発展と共同体の崩壊

 戦後半世紀、日本経済の奇跡的発展を支えた日本人のライフスタイルは大きく変化した。

 働き方は、自営業から会社勤務へ。就業形態別労働力人口の推移を見ると、1950年代、自営業者等2300万人に対し雇用者1700万人。自営業が55%以上であった。2000年代、自営業者等900万人に対し雇用者5500万人。半世紀で逆転し、実に会社勤務が85%以上になった。

 働き方の変化は、家族関係にも変化を齎した。家庭内労働から家庭と勤務地の分離へ。さらに、都市への転居により核家族化が進み、転勤制度がそれを助長した。核家族が常態化し、家族人数の減少が続いた。「家族中心の生活」から「会社中心の生活」へ。経済発展の背景で、「血縁」や「地縁」は希薄化し、逆に「社縁」が強化されていった。

 1990年代以降、バブル崩壊やグローバリゼーション進展の中で、企業の終身雇用制度が綻びを見せ始めた。その後の景気低迷の中で正規雇用は減少した。「会社中心の生活」から「自分中心の生活」へ。「血縁」も「地縁」も「社縁」も頼りにならない時代を迎えた。

 「家族共同体社会」から「会社共同体社会」へ。そして、「共同体のない社会」へ。本誌主宰者矢野弾氏の表現を借りると「個々バラバラ社会」となった。

3.「自助共助中心ライフスタイル」の創造

 私の提案は、「家族」という「共同体」を見つめ直すことで、「自助共助中心ライフスタイル」を創造しようとするものである。

 従来、「個」は「共同体」によって守られていた。それが「共同体のない社会」では、「個」は直接「社会」によって守られる。逆に言えば、「個」は「社会」なしには生きられない。換言すれば「公助中心ライフスタイル」である。ただ、 これからの時代、「社会」は「個」を守ってくれない。2040年まで高齢者人口は増え続ける。年金、介護、医療、生活保護など社会保障制度を現行通りとできるとは考えられない。

 消費税引き上げで社会保障費を賄おうという議論がある。ただ、これには問題がある。第一に、消費税収を社会保障費にのみ充当する限り、国の借金はいつまでたっても減らせない。第二に、道路特定財源同様、不要不急の支出の温床となることである。消費税の社会保障目的税化は後世に禍根を残すので反対だ。

 「自助」とは、自らを「自らが助ける」こと。「共助」とは、自他が「お互いに助け合う」こと。「公助」とは、自らを「公に助けてもらう」こと。「自助」を高めるには「教育」が重要だ。「共助」を高めるには「絆」を育むことが重要だ。そのためにいかにするか。

 私は、「家族・親族共同体」の再生を真正面から検討すべきときがきたと考えている。具体的には、家族の人数を増やすことで、子育て、教育、調理、労働、医療、介護など、経済発展で生活が便利になる中でアウトソース化されていた機能を家庭に取り戻す作業である。

 時代に逆行するといわれるかもしれない。今さら無理だと言われるかもしれない。ただ、私たちは人類未体験領域にいる。いくらナローパスであろうとも検討しない理由はない。

 実現に向けた第一は、魅力的な暮らしぶりを構想すること。「昭和の匂い」のするものかもしれない。

第二は、政策パッケージをつくること。具体的には、一つ目に同居の促進。二つ目に定住の促進。三つ目に近隣勤務の促進など。そのために、転勤が少ない労務管理を促したり、自営業の振興を実施したり、いまとは全く異なった視点での政策形成をしなければならない。

 「多人数家族」の実現に向けて、日本にはチャンスがある。第一に、強固な家族関係がまだ残っていることである。親との同居の多さ、婚外子や父子・母子家庭の少なさは、諸外国対比際立っている。

 第二は、これからの都市部への人口集積である。2010年12月に国交省国土審議会で公表された資料「国土の長期展望に向けた検討の方向性について」によると、2050年には国土の6割以上で人口が半減し、増加するのは2%都市部のみである。そうであれば、都市部における多人数家族のライフスタイルの形成をいまから構想しようではないか。

『月刊カレント』2011年3月号掲載
(2月16日記)