寄稿「大震災を越えて」
2011年3月11日午後2時46分。マグニチュード9.0。国内観測史上最大、1900年以降世界4番目の大地震に見舞われた。1万人を超える死亡者・行方不明者、数十万人の被災者、未曽有の大震災となった。
津波に街がのまれていく映像を目にして、驚愕した。「家族が流された」とのインタビューに、居た堪れない気持ちになった。長い避難所生活によるストレスや健康が心配になった。一方、いつも助け合い、いつも整然と順番を待つ日本人の礼節に満ちた姿に、誇りさえ感じた。
まず、被害者の皆さんのご冥福を祈り、被災者の皆さんに心からのお見舞いを申し上げたい。
1.「東日本大震災」と向き合う覚悟
日本は、国内的には「人口減少高齢化」、対外的には「グローバリゼーション」という不可逆的で急激な環境変化に対応していかなければならないことに変わりはない。先月号まで述べてきたように、日本は豊かで長生きを達成した「成熟国家」が容易に陥る「超成熟国家の罠」に嵌っている。人口減少高齢化、経済縮小、財政悪化によって、「衰退国家」への道の入り口に立っている。
バブル崩壊から20年。いよいよ本腰を入れて国家再建に向けて国民一丸となって取組もうとする矢先の大震災である。
今回の大震災は、長期的にみた日本社会全体の発展プロセスにおいても、計り知れない影響を及ぼすだろう。バブル崩壊と同様の巨大な調整コストを生じるかもしれない。傷跡を克服するのに、半年一年ではなく、数年から十年単位の時間がかかるのではないか。であるならば、震災からの復活を、日本社会全体の復活の契機にするよう努めてみようではないか。
今回の地震では、第一に、地震に加え津波の被害が大きく、多数の被害者と被災者が出た。第二に、原発事故により電力供給力確保が当面難しくなった。第三に、電力供給不足から計画停電などが実施され、国民生活全般に大きな影響を及ぼした。第四に、原発事故が深刻化し、放射能漏れ懸念が高まった。第五に、経済活動が抑制され、株安に加え円高も進行し、景気への影響が予想される事態となった。第六に、補正予算や税収落込みなどで財政状況が悪化することが見込まれることとなった。
「東日本大震災」は、被災地域だけの問題ではない。日本の社会システム全体に影響を及ぼすものであった。被害者・被災者対策、復興策は可及的速やかに実施していかなければならない。ただ、その後、日本全体を軌道に戻す作業も視野に入れておかなければならない。
少し前のめりの議論になるかもしれないが、「バブル崩壊」の二の舞になってはならないと考えている。1990年からの20年間、私たちは景気対策に終始してきた。その反面、少子高齢化・人口減少といった先進国が抱える課題への対応を怠り、グローバリゼーションへの対応も後手に回った。今回は、復興プロセスにおいて、「人口減少高齢化」ならびに「グローバリゼーション」への対応も併せて考えていかなければならない。もう失える時間はない。
2.「日本人は冷静」と世界の声
震災報道の中で、悲惨な現状を伝えられるとともに、特に海外から、日本社会や日本人に対する様々な評価や称賛の声が聞かれるようになった。
地震2日後の3月13日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「不屈の日本」と題した社説を掲載した。いわく、日本は、地震という自然災害から国民を守るために適切に対応してきた、と。建物の耐震化、緊急地震速報など。
同じ13日、ロサンゼルス・タイムズ紙は、東日本巨大地震を取材中の特派員電を掲載、「非の打ち所のないマナーは、まったく損なわれていない」という見出しで、巨大な災害に見舞われたにもかかわらず、思いやりを忘れない日本人たちを称賛した。
3月15日、フランスの通信社AFPは、「悲劇の中、日本に集まる世界の称賛」と題した記事を配信した。
AFPの取材に、米ハーバード大学ジョセフ・ナイ教授は、「「悲劇は計り知れないが、日本が持つ非常に魅力的なある面を、この悲しい出来事が明らかにしている。それが日本の『ソフトパワー』を促進する。そうした面が共感を生み出すことに加え、このような災害に対して冷静に秩序正しく反応し、近代国家としてなしうる構えのできた安定した、礼儀正しい社会であることを示している」と答えた。
米国の戦略国際問題研究所(CSIS)ニコラス・セーチェーニ副所長は、「問題は、経済を革新し、復興を遂げるために必要とされることに、日本が対処できるかどうかだ。予測を立てるには時期尚早だが、遠くから眺めてこれまでのところ、日本人は危機の際の耐性の強さを示していると思う。この点が後日、日本という国をよく物語る点になると思う」と述べた。
世界は、日本のこれまでの地震対策や日本人の冷静さや助け合いの姿を率直に評価している。私たち日本人としては、自らの姿を改めて見つめ、誇りを取り戻す機会となるのではないか。
3.大震災の教訓
地震直後、石原慎太郎都知事が、「天罰発言」をして問題になった。ただ、発言文を読んでみると、「政治も日本人の我欲に縛られたポピュリズムになっている」と述べている。政治家が国民を信じていない、と警鐘を鳴らしたと受け止めた。
海外メディアの報道を待つまでもなく、被災地に高潔な日本人の姿があった。極限状態であるにもかかわらず、自助自立、相互扶助を規範に立派に対応している姿に感銘さえ受けた。それに加え、「計画停電」に関しても、直前の発表にも関わらず各地で大きな混乱は生じなかった。国道を整然と歩く通勤通学者の列がまぶたに焼き付いている。
日本人は、危機感を共有したとき、極めて高い規範意識をもって行動する。だとすれば、日本の政治家は、日本人を我欲の塊と見なしバラマキ政策に終始するのでなく、この高潔な日本人をもっと信じなければならない。そして、危機認識を共有し、規範を提示し、実行に移すことにリーダーシップを発揮していかなければならないのである。
国政では、子ども手当や高速道路無料化などマニフェスト関連予算を削減し、震災対策の財源に充てる議論が行われた。国家的危機の対応の中で、政治家も旧弊から脱却するときではないか。
『月刊カレント』2011年4月号掲載
(3月17日記)



