寄稿「首相公選論、四度目の正直」

1.強力な政治的リーダーシップの構築に向けて

 菅首相が「居座り」を続けています。内閣支持率は10%台。与野党問わず政権批判を続ける異常な状態が続いています。国難に対応するため強い政治的リーダーシップが求められている状況の中で、政治崩壊は回避しなければなりません。

 いまなすべきことは、第一に、震災対応に集中し一定の目途をつけること。そのために、挙国一致内閣を発足させ、政策と工程表を創り上げ、官僚機構をフルに活用すること。第二は、財政健全化、成長戦略、エネルギー政策など中長期的課題の解決の方向性を示すこと。そして、それを実現するための強力なリーダーシップを構築すること。

 具体的には、これからの半年一年、与野党協力して震災復旧復興を実現していく裏側で、各党が中長期的課題に対処すべく国家グランドデザインを描き、具体的政策パッケージを提示する準備をすることです。そして、日本の21世紀の国家グランドデザインを賭けた総選挙を実施します。

 政治的リーダーシップには、数の論理とリーダーの個人的資質が重要でした。加えて、世論を味方につけることも重要となりました。しかし短命政権が続く中、長期安定政権を築くのは難しいのではないかとの意見も少なくありません。

 しかし、政治的リーダーシップを構築する上でもう一つ重要な要素があります。それは選挙で示される民意の力です。国民は自ら選んだ首相や政策を尊重します。首相が変わらない限り、政策が変更されない限り、選挙で決まったことを支持します。したがって、次の総選挙までに、長期政権を担える首相候補を選びだし、日本再生に向けた実現可能な中長期の国家ビジョンを描くことが重要です。

2.これまでの首相公選論

 最近改めて首相公選制が唱えられ始めました。そこで、戦後これまで三度に亘って議論された首相公選論を振り返ってみます。

(1)反・独裁政治の首相公選論
 一度目の首相公選論は、1953年に中曽根康弘氏がハーバード大学夏季国際セミナーでアジア代表として提唱したことに始まったといわれています。小党分立、短命政権続発の政治情勢の中で、ドイツの様な独裁者登場の危険を回避するための方策として唱えられました。しかしその後日本では、政治面では保守・革新それぞれの合同により五十五年体制が構築され、経済面では高度経済成長が実現され、日本の国家システムが戦後の安定軌道に入っていく中で、首相公選制は憲法改正とともに語られなくなりました。

(2)脱・派閥政治の首相公選論
 二度目の首相公選論は、自民党の行き過ぎた派閥政治への不満がリクルート事件などで顕在化し、また、冷戦終焉を受けて憲法改正議論が始まった時期に活発になりました。1989年に結成された新しい保守集団「自由連合」が、クリーンな政治の確立を企図して首相公選制を唱えました。その後の政治改革議論の中で、1993年2月には山崎拓氏を会長に所謂YKKを含む自民党有志が「首相公選制を考える国会議員の会」を結成しました。しかしその後、政治改革の具体策が政権交代可能な二大政党制を企図した小選挙区制導入で決着したため、首相公選制の議論は深まりませんでした。

(3)脱・密室政治の首相公選論
 三度目の首相公選論は、2000年4月小渕首相退陣に伴い森首相が密室で決定されたとする不満から活発になりました。2000年11月には民間でも「首相公選の会」が結成され機運が高まりました。結局、2001年4月の自民党総裁選はあたかも国民参加の首相公選の様相を呈し、橋本龍太郎氏を破った小泉純一郎氏が大きな熱狂の中で首相に就任しました。小泉首相はそれまで取組んできた首相公選を制度化するため、佐々木毅東大教授を座長に「首相公選制を考える懇談会」を設置し、2002年8月に報告書がまとめられました。しかし皮肉なことに、首相公選制を疑似的に体験し、選ばれた小泉首相が強いリーダーシップを発揮したことで、首相公選制は論じられなくなりました。

 これまで三度の首相公選論の背景には、それぞれに政治改革の目的がありました。ただ、それらの政治改革の目的は、首相公選制とは異なる手段で達成されました。反・独裁政治は五十五年体制によって、脱・派閥政治は小選挙区制導入によって、脱・密室政治は疑似的首相公選制によって達成されました。

3.首相公選論を日本再生の契機に!

 これまで見てきたように、日本の政治システムは段階的に進化しました。さらに、2009年総選挙では政権交代が実現し、事実上首相公選が達成されました。しかし、1994年の政治改革で企図された政権交代可能な二大政党制は実現したものの、逆に日本政治は統治能力をなくしてしまいました。

 国民が直接首相を選べる仕組みは出来上がりましたが、選ばれた首相の政権担当能力を事前にチェックする仕組みが用意されていなかったのです。

 民主党政権の問題は、第一に実現不可能な政策を掲げたこと。第二に不適当な人を首相候補としたこと。第三に総選挙で国民が直接選んだ首相と政策を軽々に変更することです。

 鳩山氏は国民に選ばれましたが、菅氏は単に民主党所属国会議員によって選ばれただけです。議院内閣制の首相は大統領制の大統領より強大な権力を付与されると言われますが、菅首相の政権運営は正統性のない権力者による独裁政治の危険性さえ感じさせます。

 それでは四度目の首相公選論の目的は何でしょうか。選ぶ側の政権選択の自由度の確保に加えて、選ばれる側の政権担当能力の向上です。有能で長続きする政権をつくるための首相公選論です。ポイントは、総選挙に向けて各党が首相候補と政権公約をじっくり決めること。そして、総選挙で勝利したリーダーは少なくとも4年間じっくり腰を据えて新しい国づくりに取組むことです。

 加えて、衆参ねじれ国会の問題には対処しなければなりません。2007年に憲法改正国民投票法は成立し改憲手続きは実施可能です。衆議院優越を担保する憲法改正も検討すべきです。

 様々な課題を抱える日本に残された時間はわずかです。政党が党利党略に走らず、政治家が私利私欲や保身に走らず、国家国民と真正面に向き合って、まずは挙国一致し震災復旧復興に臨み、そして各党が国家グランドデザイン策定に精一杯の知恵を絞ることです。

 その上で、総選挙を実施し、国民が直接選んだ日本の未来を、国民が直接選んだリーダーを先頭に、国民総がかりで実現していこうではありませんか。首相公選的議院内閣制の実現を通じて、国家グランドデザインを策定し、強力な政治的リーダーシップを構築することが、日本再生の最も近道であると考えます。

月刊カレント2011年8月号掲載
(7月19日記)